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2018年、米演劇界の最高名誉であるトニー賞授賞式は、異様な雰囲気に包まれた。その理由は、一本のミュージカルが、ノミネートされた11部門のうち、作品賞を含む10部門を独占したからである。 その作品の名は『The Band’s Visit』。2007年に公開された映画「迷子の警察音楽隊」(カンヌ国際映画祭ある視点部門・国際批評家連盟賞、ジュネス賞、一目惚れ賞/東京国際映画祭・最優秀作品賞)を原作に、ミュージカル『ペテン師と詐欺師』の作曲家デヴィッド・ヤズベックが作曲と作詞を手掛けた作品だ。
トニー賞で10部門を独占したのは2006年の『ビリー・エリオット』以来の快挙だが、本作は大規模で派手な趣向のある作品というわけでもない。しかし、イスラエルに演奏旅行に来たエジプトの音楽隊が道に迷い、地元のイスラエル人と一晩交流をするというシンプルな物語の中に流れる、抒情的な空気と独創的な音楽は、得も言われぬ魅力を放つ。
米国で本作が圧倒的な評価を得た背景には、楽曲や俳優陣の素晴らしさもさることながら、歴史的に対峙してきたエジプトとイスラエル二国の国民同士が、国境を越えて心を通わせるという、人間の本来あるべき姿を描いたメッセージが、時勢に即して人々の心に刺さったことが大きい。
世界中で平和への願いが強まるとき、本作が日本で観客にどのようなメッセージを届けるのか、目が離せない。